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神戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)29号・昭63年(行ウ)8号 判決

原告

高津美智子

右訴訟代理人弁護士

辻公雄

佐井孝和

松井忠義

吉川実

神谷誠人

共同訴訟参加人

松本茂郎

(ほか一一名)

右共同訴訟参加人ら訴訟代理人弁護士

山内康雄

佐伯雄三

藤原精吾

前哲夫

深草徹

小貫精一郎

被告(元芦屋市長)

松永精一郎

右訴訟代理人弁護士

北村巌

松原正大

酒井圭次

事実及び理由

第三 裁判所の判断

一  前記争いがない事実等に、証拠によれば、本件の経緯について次の各事実が認められる。

1  本件土地の購入について

(一)  昭和四八年当時、芦屋市は、同市立朝日ケ丘小学校に併設する朝日ケ丘幼稚園の建設用地を求めていたところ、本件土地がその候補として浮上し、所有者である住友生命との間で買取りの話を進めた。(〔証拠略〕)

(二)  右売買の話が煮詰まった段階で、朝日ケ丘小学校南隣の土地(現朝日ケ丘幼稚園に使用されている土地)の取得が決定したため、本件土地を取得する当面の目的は失われたが、芦屋市は、将来の公共用事業用地として取得する方針を決定し、芦屋市長が理事長を兼ねていた公社に本件土地を取得させることとし、公社は、昭和四八年一一月五日、住友生命から本件土地を代金七億八三〇六万二〇〇〇円(三・三平方メートル当たり三五万円)で買い受けた。

右売買契約には、売買土地を芦屋市の公共事業用地として使用すること、一〇年以内に公共文化施設に供するものとし、他に転売をしないこと、公共文化施設とは、緑地公園、教育文化施設、社会体育施設、その他これらに準ずるものをいうこと、右施設以外の公共文化施設の用途に供する場合は事前に協議することという条件が覚書にまとめられた。(〔証拠略〕)

(三)  本件土地は、取得時からしばらくの間、特定の事業目的もなく遊休地であったが、芦屋市立岩園小学校の運動場が手狭な状況にあったため、芦屋市は、昭和四九年六月一日、公社から、本件土地の有効かつ適切な利用の必要が生じるまでの間、本件土地を岩園小学校の第二運動場として使用する目的で、期間を昭和五〇年三月三一日までとする約定で、無償で借り受け、同小学校の第二運動場に使用させた。(〔証拠略〕)

(四)  昭和五〇年三月三一日の契約期間満了の後も、本件土地の有効かつ適切な利用の具体的方策がなかったため、引続き、一年ごとに右使用貸借契約が更新されてきた。しかし、公社が長期にわたり本件土地取得費並びにその金利負担をすることは資金繰り上困難であったことから、芦屋市は、昭和五二年三月三一日、公社から、本件土地を取得原価(公社の買受代金及びそれに対する金利並びに土地管理費用)である一〇億八九七三万一七八九円(三・三平方メートル当たり四八万七〇七〇円)で買い受けた。その売買代金は、義務教育債(小学校債)の起債によって調達した。右売買契約には、芦屋市が公共事業用地として使用する目的で取得する旨の約定があったが、芦屋市による右財産の取得は、一般的な行政財産の取得で、直接、学校に関係する教育財産の取得を目的としたものではなかった。したがって、文部省に提出が義務づけられている公立学校施設等総括表(施設台帳)にも本件土地は学校に関係する教育財産として位置づけられていなかった。(〔証拠略〕)

(五)  芦屋市は、右買受後も引き続き、岩園小学校に第二運動場として使用させていた。同運動場の周囲の金網のネットには、「岩園小学校第二運動場」と明示した芦屋市教育委員会名義の公示札が掲げられていた。同運動場は右のほかに幼稚園、子供会等の地域の運動場としても使用されていた。(〔証拠略〕)

2  上宮川住宅地区改良事業及びそのための用地取得

(一)  芦屋市は、同和対策事業の一貫として、住宅地区改良法に基づき、国道二号線に面したJR芦屋駅東隣で市の中心部に当たる不良住宅が密集する地区の住宅地区改良事業を計画し、昭和四六年一二月一七日、建設大臣の地区指定を受け、昭和五〇年四月同地区の環境整備改善を図り、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅の集団的建設を促進する事業計画の許可を建設大臣に申請した。しかし、芦屋市が、昭和五〇年に、右事業地区内に一一筆(計一三三八・四九平方メートル)の土地を所有する寺本らの土地のうち、二筆を事業のため先行取得したところ、昭和五一年一一月二四日、芦屋市の住民から芦屋市長を被告として、右土地買収価格が不当であるとして、その損害賠償を求める住民訴訟が神戸地方裁判所に提起され(同裁判所昭和五一年(行ウ)第三二号事件)、その判決の結果を待っていたことから建設大臣の事業認可が遅れていたが、右事件の控訴審判決が出された直後の昭和五九年一一月にようやく同大臣から認可を受けた。(〔証拠略〕)

(二)  芦屋市は、右許可後の昭和六〇年ころから右地区内において、積極的に用地の買収に取りかかり、住宅地区改良事業を進めてきた。しかし、前記寺本剛らから、買収に関して代替地の要求が強く出され、芦屋市からは、代替地として、本土地を含め、四、五か所の土地が示されたが、寺本剛らは、これを拒否し、話し合いはなかなかまとまらず、そのため、右住宅地区改良事業は容易に進行しなかった。(〔証拠略〕)

(三)  昭和六一年秋ころ、寺本剛らから、芦屋市に対し、本件土地を代替地として所得したい旨の意向が示された。(〔証拠略〕)

(四)これに対し、芦屋市は、本件土地のそれまでの利用が公有地の拡大の推進に関する法律三条による「有効かつ適切な利用」とはいいがたいこと、岩園小学校の施設の改善整備のため隣接地を買収する予定であり、これにより翌年春ごろからは同小学校の運動場の拡張が可能となり、同小学校の校舎から離れた本件土地を第二運動場として使用する必要性が乏しくなること、地域の一部住民が本件土地をゲートボール場として利用しているが、本件土地全部を寺本剛らに提供する必要はなく、ゲートボール場用地分は確保できること、という諸事情があり、かつ、住友生命との当初の契約に基づく、公共用地に使用し、他に転売しないとの約束については、昭和六一年一〇月七日付けで同社と芦屋市との間で市が私人に売却することの了解を得ていることから、寺本剛らの意向に従い、同人らに対し、本件土地を住宅地区改良事業の代替地として提供することで話し合いを進めた、但し、当時、まだ岩園小学校第二運動場として使用されていたため、本件土地の引渡しは昭和六二年三月末とする方向で合意が成立していた。(〔証拠略〕)

3  本件土地の譲渡に伴う手続

(一)  地方自治法一五条一項に基づく芦屋市公有財産規則(昭和三九年四月一日規則一四号)は、市所有の財産を売却する際の価格決定に関して次のように定めている。(〔証拠略〕)

(1) 公有財産に関する事務の総括並びに普通財産の取得、管理及び処分に関する事務は総務部長が行う。(三条二項、四条)

(2) 公有財産の取得、交換又は処分に関する価格決定は公有財産評価委員会の議を経なければならない。(六条)

(3) 同委員会委員長は総務部長とし、委員は用地管財課長等の職にある者をもって充てる。(七条三項)

(二)  本件に関する公有財産評価委員会は、昭和六二年三月七日に開催され、同委員会は、評価時点を同年三月一日とした。

この評価に当たっては、一般に、外部の鑑定士に依頼することは稀であるが、同委員では、本件土地の面積が広く、かつ、法地部分も多いため、評価をすることが困難と判断し、日本不動産研究所に同土地の鑑定を依頼して鑑定書を入手した。また、委員全員による現地視察が実施された。

その上で、同委員会は、本件土地の売渡価格、精道町の土地及び三条南町の土地の取得価格の評価を後記売買代金価格と定めた。なお、本件土地の価格については、基準地である芦屋市朝日ケ丘町二四二番宅地四九五平方メートルの昭和六一年一月一日現在の公示価格一平方メートル当たり三〇万二〇〇〇円に別紙「本件土地の一平方メートル当たりの単価算出方法」記載のとおり、時点修正を行い、かつ、その上で、個別要因格差修正を行い、一平方メートル当たりの単価を一八万四七〇〇円と評価して算定した。(〔証拠略〕)

(三)  芦屋市は、同年三月末に、関係各部局の担当者の会議により、本件土地を行政財産から普通財産に移管することを決定した。本件土地は、それまで、名目上、「岩園小学校第二運動場」として一時使用されてきたことから、前記の施設台帳には記載されていなかったため、用途廃止に伴う施設台帳上の変更はなかった。また、右担当者の間では、本件土地の利用に関して、岩園小学校及び近隣の朝日ケ丘小学校の授業、行事における支障はないとの判断であったが、ただ、本件土地が近隣の子供達の遊び場として、あるいは年配者のグループのゲートボール場として使用されてきたという実態があったことから、一五〇〇平方メートル以上の土地を確保し、「広場」として残されたいとの意見が出された。

ところで、教育財産は、地方公共団体の長の総括の下に教育委員会が管理し(地方教育行政の組織及び運営に関する法律二八条)、教育委員会は、教育財産の管理、学校施設及び教具その他の設備の整備に関する事務を管理執行する(同法二三条二号、七号)と定められ、さらに、同法二六条は、教育委員会は教育委員会規則で定めることにより権限に属する事務の一部を教育長に委任できると定めているところ、芦屋市教育委員会委任規則(昭和四三年五月一日教育委員会規則六号)二条は、同条に掲げる事項を除いて、教育長に委任する旨定めている。芦屋市教育委員会は、昭和六二年三月三〇日、岩園小学校から第二運動場の使用状況を確認した上、本件土地の岩園小学校第二運動場としての使用廃止を決定したが、右決定は、前記教育委員会委任規則二条に基づき、教育長が行った。

そして、同年三月三一日付けで、芦屋市教育委員会総務課から同市総務部用地管財課に本件土地の所管が引き継がれた。(〔証拠略〕)

4  本件土地の譲渡

(一)  昭和六二年四月一三日付けで、本件土地は、別紙図面のとおり、芦屋市朝日ケ丘三二五番三(三四六二・一三平方メートル)、三二五番二(二八〇〇・七五平方メートル)及び三二五番一(一一三三・二二平方メートル)に分筆された。(〔証拠略〕)

(二)  芦屋市は、昭和六二年四月一六日、右三二五番三の土地を上宮川住宅地区改良事業の用地取得に伴う代替地として、寺本剛らに対し、代金六億三九四五万五〇〇〇円(三・三平方メートル当たり六〇万九五一〇円)で売り渡した。

(三)  また、芦屋市は、右売却とともに、同月二〇日、右三二五番二の土地を、寺本製靴が、所有している次の土地を同記載の代金で買い取る交換用地として、同社に対し、代金五億一七二九万八〇〇〇円(三・三平方メートル当たり六〇万九五一〇円)で売り渡した。

<1> 精道町の土地

代金一億一五九九万七〇〇〇円(三・三平方メートル当たり八七万七八〇〇円)

<2> 三条南町の土地

代金二億七一七四万六〇〇〇円(三・三平方メートル当たり八六万八八九〇円)

これは、芦屋市において公共事業用地を確保する必要があり、かつ、寺本剛らも右交換を希望したこと、本件土地は、その地形上、分割して使用した場合は、土地全体を一括利用する場合と比較してその利用度が著しく低下するとみられ、三二五番地三の土地を取得する寺本剛ら並びに三二五番二及び同番一の土地を所有する芦屋市の双方にとって有益ではないと考えたことによるものであった。

二  争点1について

1  前記認定のとおり、芦屋市から寺本剛ら及び寺本製靴(以下、両者を併せて「寺本ら」という。)に対する本件土地の売買が随意契約によったものであるところ、地方自治法二三四条一項は、普通地方公共団体のする売買等の契約は一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りのいずれかにより締結するものとし、同条二項は、そのうち、一般競争入札を原則と定め、随意契約等の他の方法は、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができると規定し、これ受けて、地方自治法施行令一六七条の二第一項一号及び別表第三は、市町村は、その予定価格が三〇万円の範囲内において市町村の規則で定める額を超えるときは、随意契約によって売買等の契約をすることはできないと定めており、これを受けて、芦屋市においては、同市契約規則(昭和六二年四月一日規則六号)の一八条(4)で右金額を三〇万円と定めていることが認められる。

そして芦屋市から寺本らに対する売却価格は、前記認定のとおり、三二五番三の土地につき六億三九四五万五〇〇〇円、三二五番二の土地につき五億一七二九万八〇〇〇円であるから、右金額を超えていることは明らかである。

この点について、被告は、本件の契約の性質及び目的が競争入札に適しないものであることが明らかであるので、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号により随意契約によることができる旨主張している。

ところで、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号で随意契約によることができる場合として定める「その性質又は目的が競争入札に適しないものであるとき」とは、契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合のみならず、競争入札の方法によること自体は不可能又は著しく困難とはいえないが、競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法を採るのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合もこれに該当すると解すべきである。そして、このような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約の締結の方法に制約を加えている法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。

2  そこで検討するに、前記一で認定のとおり、芦屋市は、昭和四〇年代から同市において解決すべき重要課題の一つとされていた上宮川住宅地区改良事業を推進するためには、同地区内で寺本剛らが所有している土地の買取りを必要とし、かつ、同人ら所有土地が計一一筆一三三八・四九平方メートルという広大な面積に達しており、同人らの協力がなければ同改良事業の円滑な進行が到底考えられない状況にあったところ、同人ら所有土地の買取りに当たり、同人らから代替地の提供を要求され、折衝の結果、代替地の候補地として芦屋市が挙げていた中で、最終的に本件土地を取得したいとの申入れが寺本らからあったため、本件土地を行政財産から普通財産に保管替えした上、三二五番三の土地を寺本剛らに対し上宮川住宅改良事業用地取得に伴う替地として売却するとともに、三二五番二の土地を寺本製靴に対し公共事業代替用地取得に伴う替地として売却したものであることが認められる。

右事実によれば、本件土地の売却は、寺本らから住宅地区改良事業用地及び公共事業代替用地をそれぞれ取得したことに伴うもので、右住宅地区改良事業を遂行する上で必要不可欠なものであったと言うことができ、住宅地区改良事業を達成するための用地取得に伴う譲渡という契約の目的を達成する上で妥当であり、これにより、芦屋市において長年にわたる課題であった住宅地区改良事業を完成に導くという芦屋市の公共の利益に直結すると認められ、競争入札に適しないものであることが明らかであるから、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号により随意契約によることができる場合に該当すると認められる。したがって、この点について違法はないといわなければならない。

三  争点2について

1  地方自治法九六条一項八号は、普通地方公共団体がその種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をするには議会の議決を必要とするとし、同法施行令一二一条の二第二項及び別表第二は、土地については、面積が一件五〇〇〇平方メートル以上で、かつ予定価格が二〇〇〇万円の範囲内で条例が定める金額以上の土地の売払いについて、議会の議決を要するとしており、これを受けて、甲第五号証によれば、芦屋市の「議会の議決に付すべき契約および財産の取得または処分に関する条例」(昭和三九年三月三一日条例二二号)三条では右予定価格が二〇〇〇万円以上の売買について議会の議決を要するものと定めていることが認められる。

ところで、前記二で認定したところによれば、本件で売買の対象となった二筆の土地は、もともと一筆の土地であり、それが三筆に分筆された上、そのうちの二筆が売却されたものであること、売却された二筆の土地の面積の和は、合計面積が六二六二・八八平方メートルであることが認められる。

原告らは、右売買が一個の売買であれば、当然に市議会の議決が必要となったはずであるのに、右地方自治法の制約を免れるために、買主に売り払う土地を二分し、かつ、実質的に一体である買主に譲渡したもので、地方自治法九六条一項八号に反し無効である旨主張する。

2  しかし、前記認定のとおり、三二五番三の土地は上宮川住宅改良事業用地の取得、三二五番二の土地は公共事業代替用地の取得を目的としてそれぞれ譲渡されたもので、細かくみると形式的には目的が異なるし、また、各用地取得の相手方も三二五番三の土地は寺本剛ら、三二五番二の土地は寺本製靴であって異なっている。

むろん、本件土地を寺本らに売却することとなったのは、前記認定のとおり、上宮川住宅地区改良事業の円滑な遂行を図るため、同事業地内に存在する寺本剛ら所有土地を買収する際に、その代替地として提供を求められたためであり、そのために、まず、右事業地内に存する寺本剛らの所有地の代替地として、本件土地のうち三二五番三の土地を売却し、それに伴い、本件土地の残余の土地のうち、三二五番二の土地を寺本剛が代表である寺本製靴に譲渡する代わりに公共事業用地として精道町の土地及び三条南町の土地を買い受けたものである。また、本件において、形式的には、三二五番三の土地と三二五番二の土地という二筆の土地を売却したのであるが、もともとは本件土地として一筆の土地であり、かつ、右売却の前までは、岩園小学校の第二運動場として一体として使用されていたのである。そうすると、もと一筆の土地の一部である本件土地を寺本剛ら及び寺本剛が代表者をしている寺本製靴にそれぞれ譲渡したものであるから、実質的に考えると、右二個の売買は、一体のものであるという評価をすることも可能である。

しかし、既に述べたとおり、地方自治法九六条一項八号、同法施行令一二一条の二第二項及び別表第二、芦屋市の議会の議決に付すべき契約および財産の取得または処分に関する条例三条に基づき、議会の議決を必要とする土地の売却については、面積が一件五〇〇〇平方メートル以上で、かつ予定価格が二〇〇〇万円の範囲内で条例が定める金額以上の土地の売払いについて定めているのみで、それ以上の要件は何ら定められていない。したがって、法律及び条例の上で要求されている手続としては、土地の売却に関しては一件ごとに形式的に考察すれば足りるといわなければならない。確かに、このような場合に実質的に住民によって選ばれた議員で構成される議会の審議を受けることが地方自治の建前から望ましいということはできる。しかし、できる限りそのようにした方が望ましいということと、法令の上で要求されていることとは別の問題であって、本件では、形式的に捉えて、議会の議決を不要とした芦屋市の措置に違法な点を見出すことはできない。また、〔証拠略〕によれば、本件土地の売却について、売買契約締結後の昭和六二年六月の市議会において討議の対象となり、売却代金一一億五六七五万三〇〇〇円の歳入を含む歳入歳出補正予算が可決承認されていることが認められ、これにより予算の面から議会の承認を得ていることが窺われるから、本件の売却が市議会の意向を全く反映していないということはできない。

原告らは、本件の売買は、地方自治法及び同法施行令の制約を免れることを目的としていた旨主張するが、本件土地を分筆した上で二件の売買としたことが、右の経過に鑑み、芦屋市において、故意に法令の制約を免れることを目的としていたことを窺わせる資料は存しない。

したがって、原告らの右主張は採用することができない。

四  争点3について

1  地方自治法二三七条二項は、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換してはならないと定め、これを受けて、甲第六号証によれば、芦屋市の「財産の交換・譲与・無償貸付等に関する条例」(昭和三九年三月三一日条例第二三号)二条は、普通財産の交換に関して、<1>価格の差額が、その高価なものの四分の一を超えてはならない、<2>芦屋市において「公用または公共用に供するため他人の財産を必要とするとき」でなければならない、と定めていることが認められる。

そして、前記認定のとおり、芦屋市が本件土地を寺本らに譲渡するに至ったのは、住宅地区改良事業用地の取得に伴う替地として本件土地を要求されたことによるものであること、芦屋市が寺本製靴に譲渡した三二五番二の土地の価格が五億一七二九万八〇〇〇円、同市が寺本製靴から譲り受けた精道町の土地の価格が一億一五九九万七〇〇〇円、三条南町の土地の価格が二億七一七四万六〇〇〇円、計三億八七七四万三〇〇〇円であることが認められ、これによると、その差額は一億二九五五万五〇〇〇円となり、これは高価なものの価格五億一七二九万八〇〇〇円の四分の一である一億二九三二万四五〇〇円を僅かではあるが超えるという結果になることが認められる。

2  確かに、原告らが主張し、被告もまた認めるとおり、三二五番二の土地を寺本製靴に売却したことと、同社所有の精道町及び三条南町の土地を買い受けたことは、その経緯、売買の時期及び目的に照らし、経済的には、交換取引であると認められる。

しかし、前記認定のとおり、その経済的な評価はともかく、法律的には、両者はいずれも芦屋市公有財産規則六条に基づき、公有財産評価委員会の議決を受けた公有財産の処分行為及び取得行為という二個の行為であり、芦屋市から寺本製靴への譲渡、寺本製靴から芦屋市への譲渡のそれぞれについて売買の処理が行われたものであり、交換契約でないことは明らかである。

したがって、原告らの右主張は、その前提を欠くものであり、採用することはできない。

また、その他、原告らは、右に関して種々主張するが、本件土地の譲渡が交換であることを前提とするものであり、その主張が前提を欠く以上、それらの主張も理由がないことは明らかである。

五  争点4について

1  前記認定のとおり、本件土地は、芦屋市が公共事業用地として住友生命から買い取るに当たり、いったん公社に買い受けさせ、その後、改めて公社から買い取ったが、その際、義務教育債を発行して買取代金を調達したこと、芦屋市は本件土地を公社から取得したとき、同土地を行政財産として処理したこと、但し、学校運動場としての使用は、岩園小学校の周辺地で適地が確保されるまでの臨時措置であったから、芦屋市は、学校施設台帳に本件土地を教育財産として登載せず、地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条二号の教育財産としての処理をしていなかったこと、芦屋市教育委員会は、昭和六二年三月三〇日、本件土地の岩園小学校第二運動場として使用廃止を決定し、同土地を行政財産から普通財産として同市総務部用地管財課に移管したこと、が認められる。

2  以上によれば、本件土地は、芦屋市が公社から買い受けたときから、公共事業用地として使用するという目的を有していたものであるが、その利用方法は、まだ具体化していなかったところ、公社が所有していたときから、岩園小学校の第二運動場として無償で使用させていたことから、芦屋市が取得した後においても、同小学校に同様の形態で使用させていたのであるが、その際、岩園小学校との貸借関係は、あくまでも、臨時的な措置であるという認識から、手続的には、学校施設台帳に本件土地を教育財産として登載せず、教育財産としての処理をしなかったに過ぎず、その実体は、行政目的に使用するために取得したのであるから、寺本らに譲渡される直前の昭和六二年三月末までは、公有財産の分類の中では、地方自治法二三八条二項、三項にいう行政財産として取り扱われていたというべきである。ただ、その現実の使用状況は、岩園小学校の第二運動場又は地域の住民のためのゲートボール場というものであり、岩園小学校における運動場としての利用価値がそれほどではなくなってきたという事情も認められるのである。

ところが、前述のとおり、住宅地区改良事業という芦屋市において長年にわたる懸案であった事業を円滑に遂行するという公益目的のために、本件土地を寺本らに譲渡する必要が生じ、本件土地の現実の利用状況に鑑み、行政財産としての用途を廃止し、これを普通財産とした上、寺本らに売却するに至ったものである。

したがって、本件土地が売却時に行政財産のままであったということはできないし、手続的にも行政財産から普通財産に移管した上で売却したものであって、そこに何らの違法な点を見出すことはできない。確かに、売却時まで本件土地をゲートボール場等として利用してきた付近住民からすると、突然、芦屋市の公有地が私人に売り払われてしまうという事態に驚き、困惑したその心情にも理解できないではないが、本件土地の売却は、芦屋市の全市的な政策を遂行するという立場から総合的に考慮すべきであり、そのような立場から考えると、芦屋市がとった手段は、肯認できないものではない。

なお、教育委員会が行政財産としての用途を廃止し、普通財産に移管する際における教育委員会の手続として、教育委員会の議決によらずに、教育長の決裁のみによったことについては、前記認定によれば、前記教育委員会委任規則二条に基づいたものであるが、岩園小学校第二運動場としての用途廃止は、右規則二条(10)「教育施設の整備計画を決定すること」、(11)「学校その他の教育機関の敷地の選定および変更を決定すること」(13)「教育予算その他市議会の議決を経るべき事項の原案を決定すること」のいずれにも当たらないことは明らかであるから、右用途廃止につき教育長のみの決裁によったことは何ら不当な措置ではない。

したがって、この点についての原告らの主張は採用することができない。

六  争点5について

1(一)  原告らは、本件土地の売却価格の基礎とされた芦屋市公有財産評価委員会の評価は、日本不動産研究所による全国市街地価格指数に依拠して時点修正を加えているが、芦屋市の土地の評価をするのに、全国の市街地の平均指数を持ってくるのは誤りである旨主張する。

しかし、芦屋市の土地の評価において、芦屋市独自の指数を得ることが困難である場合に、客観的基準の一つである全国市街地価格指数を採用することは何ら不合理ではないというべきである。

この点について、甲第一四号証の鑑定評価書(不動産鑑定士武市成博作成)では、本件土地の近隣である芦屋市朝日ケ丘町二四二番宅地四九五平方メートルの昭和六二年一月一日における公示価格と昭和六三年一月一日における公示価格とを比較し、その間の価格上昇率六九パーセントに基づき、昭和六二年一月一日から価格算定時点である昭和六二年四月一日までの上昇率をその三分の一である二三パーセントとしている。しかし、仮に、当時、地価が異常に高騰していた時期であり、その値動きは極めて不安定であった時期であるとすると、そのような時期において、一地点のみの地価上昇を捉えて、公共性を有する本件土地の売買において、これを基礎とすることは相当ではないといわなければならない。

(二)  原告らは、さらに、芦屋市公有財産評価委員会の評価は、昭和六二年三月一日現在の指数を求めるのに、それより前の昭和六一年三月末日と同年九月末日の両指数を比較して算定した増加率と同一の割合による増加率をもって計算しているのは不当である旨主張する。

しかし、土地の価格の算定に当たって、当該評価の日における直接の指数がない場合に、土地価格の変動率を推認するために、どの時点の指数、上昇率を基礎とするかは、一概にどの方法でなければならないということはなく、対象土地の事情を勘案して個々具体的に決せられるものであり、本件の同委員会の評価において、右のような増加率を採用したことをもって直ちに不当であるということはできない。

原告らは、昭和六二年一月一日から昭和六三年一月一日までの一年間の芦屋市の公示価格の上昇率は、八二・四パーセントであるから、直線的に上昇したとすれば、昭和六二年三月一日現在の地価は、昭和六二年一月一日現在の地価に比較すると、一三・七パーセントの上昇となるところ、公有財産評価委員会の評価は、昭和六一年一月一日現在の地価に比較して、僅かに三・一七パーセントの上昇としているに過ぎず、不当極まりない旨主張する。

しかし、地価の上昇が激しい場合に、その変動割合を的確に捉えることは困難であるということができるし、〔証拠略〕によれば、阪急神戸線芦屋川駅から徒歩一〇ないし一五分の住宅地の一平方メートル当たりの価格の上昇率が、昭和六一年九月一五日から昭和六二年三月一五日までの間においては八パーセントであるのに対し、昭和六二年三月一五日から同年九月一五日の間は八一パーセントであるという調査結果があることが認められるとおり、原告らが主張するように直線的に上昇していたという断定はできないのであるから、一つの客観的な指数を用いて上昇率(三・一七パーセント)を算定し、これに基づいて地価を算出したことをもって直ちに違法不当ということはできない。

2  原告らは、公有財産評価委員会の評価は、昭和六二年三月二七日に行われ、評価時点は同月一日であるところ、現実に芦屋市から寺本らに譲渡されたのは三二五番三の土地が同年四月一三日に、三二五番の二の土地が同年四月二〇日に、それぞれ譲渡されたのであるから、地価が急激に高騰している時期であることを考えると、評価時点は、少なくとも、同年四月一日に設定すべきであったし、また、同年四月一日には公示価格が公表されるのに、あえて三月二七日に評価を行ったのは意図的なものを感じさせる旨主張する。

しかし、前記一の2で認定のとおり、芦屋市は寺本らとの間で、上宮川住宅地区改良事業を円滑に進行させるため、同地区内にある寺本剛ら所有地を買収する代替地として本件土地ほかを候補地として挙げていたところ、昭和六一年秋ころ、寺本らは、本件土地を代替地とすることを承諾し、芦屋市もこれを了承して、基本的な合意が成立したが、本件土地は、当時、まだ岩園小学校の第二運動場として使用されていたため、土地の引渡しは年度末の昭和六二年三月末とすることとされていたこと、実際の売買契約締結は、昭和六二年四月であるが、公有財産評価委員会は、同年三月初めに現地調査を行った上、同月二七日に評価を決定したことが認められる。そして、この事実によれば、芦屋市が評価及び契約締結に至るまでの経過において、評価時点を意図的に自己に都合の良い時点に持っていこうとしたような事情を窺うことはできないし、昭和六二年三月二七日に同月一日時点での評価を行ったことをもって違法不当とすることはできない。

3(一)  原告らは、公有財産評価委員会の評価は、公示価格の基準地の一つである芦屋市朝日ケ丘町二四二番宅地四九五平方メートルの昭和六一年一月一日の公示価格に、時点修正及び個別要因格差修正を加えて、本件主地の評価額を算出しているところ、地価が高騰していた時には、右のような手法を採ることは誤りであり、出来るかぎり最近の取引事例を集め、それを分析すべきであったし、それが困難であるならば、専門家に以来して再鑑定を行うべきであった旨主張する。

しかし、前期一で認定のとおり、芦屋市では、市が土地の取得、処分等に当たって行う評価は、市の機関である公有財産評価委員会において行うのが一般であり、第三者に鑑定を依頼するのは稀であるところ、本件土地の面積が広く、かつ法地であるという特徴があるため、判断が難しいと予想されたことから、日本不動産研究所に鑑定評価を依頼したことが認められる。そして、日本不動産研究所が行った鑑定時点は、昭和六一年七月一日現在であり、現実との売買時点とさほど離れておらず、再鑑定の必要性を認めなかったとしてもさほど不思議ではない。

したがって、取引事例を集めなかったことや再鑑定を行わなかったことをもって違法不当ということはできない。

(二)  原告らは、委員会評価は、個別要因格差修正を恣意的に行い、不必要な減価を加えている旨主張する。

しかし、〔証拠略〕によれば、右基準地は、高低差のない普通の地積で、問口一、奥行一・五の長方形の土地であることが認められるところ、乙第四号証の価格比率表によれば、公有財産評価委員会が行った次のとおりの修正はいずれも修正要因として認められている上、その修正度合も、その範囲内のものであることが認められる。すなわち、まず、高低差において、基準地が普通である場合、高低差がある土地はマイナス五ないし一〇パーセントとされているが、本件土地では二・五パーセントのマイナスをしているに過ぎない。次に、地積過大について、基準地が普通である場合、それに劣る過大地はマイナス五ないし一〇パーセントとされているが、本件土地では一〇パーセントと、その許容範囲内の修正である。さらに、不整形について、基準地が普通である場合、それに劣る不整形はマイナス五ないし三〇パーセントとされているが、本件土地では一〇パーセントに留まっている。

したがって、委員会評価は、いずれの点においても、修正要因として認められ、かつ、その範囲についても、一般に許容されている範囲内で修正を加えたに過ぎないと認められるから、委員会の恣意的な見解であるとする原告らの主張は採用することができない。

七  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求及び共同訴訟参加人らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 北川和郎)

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